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千葉地方裁判所 昭和43年(タ)5号 判決

原告 中田花子

右訴訟代理人弁護士 酒井祐治

被告 中田太郎

主文

原告と被告とを離婚する。

原告と被告間に出生した長男一郎の親権者を原告と定める。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によると、原告は昭和三六年から被告と同棲し、昭和三八年九月一八日婚姻の届出をした夫婦であること、原告と被告との間に同年一一月一七日長男一郎が出生したことを認めることができる。

二、そして、≪証拠省略≫を総合すると、原告はある建設会社の飯場で炊事婦として働いていたとき、そこへ材料を運搬していた自動車運転手の被告と知り合い、やがて被告と同棲するようになったが、被告は酒を飲むと思慮分別を失うことが多く、また、競馬競輪に夢中になって原告に給料をほとんど手渡さなかったばかりでなく、時には家捜しまでして金を持ち出したりしたので、長男一郎のミルク代にもこと欠くことがあったところ、被告は昭和三九年八月五日ころ勤め先から受け取った給料を持ち、作業衣のまま原告のもとを去り、以来原告に対しその姿をくらましていることを認めることができ、右認定を左右するにたりる証拠はない。右認定事実によると、被告はきわめて自己本位的性格の持主であって、原告と同棲婚姻し長男をもうけたのに妻子を扶助する意欲に欠け、もっぱら自己の欲望を満たすため競馬競輪に夢中になり、ついには窮乏に耐え忍んでいる妻子を見捨ててその姿をくらまし、現にその所在が不明であるというのであるから、被告は昭和三九年八月五日ころ原告を悪意をもって遺棄したものとみることができる。

三、ところで、≪証拠省略≫を総合すると、原告は被告が姿をくらましたのち生活に一層困り果て、同じ現場で働いていた機械運転手の訴外大木一夫と知り合い、同人に相談相手になってもらったり、同人から経済的援助を受けたりしているうち、昭和三九年九月中旬ころには同人と同棲するようになって、現在もその関係を継続し、同人との間に一男(昭和四〇年七月二九日生)と美子(昭和四二年五月三一日生)の二子をもうけ、右一男と美子を戸籍上原告と被告との間に出生したものとして届出をしていることを認めることができる。右認定事実によると、原告は被告が姿をくらましてからわずか一か月余しか経たないうちに訴外大木と同棲し、以来その関係を継続してその間に二子までもうけているというのであるから、原告と被告間にまだ法律上の婚姻関係が存続していることを考えると一見原告には不貞な行為があったものとみられないでもない。しかしながら、原告と被告間の婚姻関係は被告が原告を見捨てて姿をくらましたときにすでにその実体を失ったものとみるべきであり、原告と訴外大木との同棲関係は原告と被告間の婚姻関係が破綻したのちに生じたものであって、しかも、それは幼児をかかえた原告が生活の破局を免れるためにやむをえずその所為に出たものといえないこともないので、訴外大木との同棲関係が早くから始まり現に存続しているからといって、これをもって原告に有責行為があるとして被告に対する離婚請求を排斥するのは相当でない。

四、したがって、離婚を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。そして、前記認定の事実のもとにおいては原告と被告間に出生した長男一郎の親権者を原告と定めるのが相当である。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤一隆)

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